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【トレーニングレポート】J1の先まで見据えるドリブラー・泉柊椰が、目の前の壁を破るために追求するものとは

【トレーニングレポート】J1の先まで見据えるドリブラー・泉柊椰が、目の前の壁を破るために追求するものとは

泉柊椰は、予想よりもはるかにタフで、どこまでもプロフェッショナルだった。

35節・秋田戦。今季最多の5ゴールを奪って快勝した一戦で、泉に出番はなかった。大宮にやってきた昨季から、怪我もなく、出場停止もなく、監督交代があっても、72試合連続でプレーしてきた背番号14にとって、リーグ戦でピッチに立てなかったのは、この試合が初めてである。



試合後の選手たちに話が聞けるミックスゾーンで、記者に囲まれていたヒーローの一人、津久井匠海の後ろを通りすぎる泉は寂しげに見えた。だから3日後、話を聞くタイミングの悪さを詫びてから会話を切り出したのだが、泉は少しも気にしていなかった。

「いやいや、全然。聞いてもらって大丈夫です。もちろん、試合に出ていないので悔しい気持ちはありますけど、昇格争いをしている現在の状況で、自分が試合に出られないからといって沈んでいくっていうのは、それこそ一番ナシだと思ってます。正直、あの瞬間に話せることはなかったので、話しかけてほしくないな……とは思ってましたけど。たぶん、その空気感が思い詰めているように見えたんじゃないですかね」

以前の輝きが影を潜めていることに関しては、宮沢悠生監督の下で任されている新しいポジション(ダイヤモンド型の中盤の左サイド)への順応が問題ではなく、自身の状態が良くないからだと断言。

「やるしかない」と決意を固めている。



振り返れば昨季も、長澤徹前監督の下で不慣れなウイングバックに挑み、苦しみながらも自分のものとした経験がある。だから、今季も同じように挑戦している感覚だという。

「ダイヤモンドということを意識して、考えすぎてるのかもしれません。ドリブラーって、考えすぎるとダメなんです。ボールを持ったときに、少し遅れるから。でも結局、考えてプレーしないと良くならない。そこの狭間で、今もがいている感じですかね。ただ、僕は成長するために大宮に来たし、自分の成長がチームの勝利に繋がればいいという考えです。だからネガティブな感情はなく、目の前の壁を前向きに破ろうとしているところです」

感覚に頼って勝負を挑むのではなく、考え抜いて、理解して、答えを見つけて、自分の武器とする。泉は、そのような過程を「言語化しているところ」と表現する。



「ドリブルで言うなら、相手を抜けるときと抜けないときの違いを言語化したいんです。過去の自分のプレーを見たり、プレミアリーグの選手のプレーを見たりして、『正対』がいかに重要か分かったんです。相手と『正対』すれば抜ける。スピードとかボールの置き場所、相手との距離感を含めて、いかに『正対』できるか。今はそこを考えていて、試行錯誤しながら取り組んでいる段階なんです」

11の局面で正面から向き合えば、相手の足は止まる。次に、前向きの矢印を出して向かっていけば相手は下がらざるを得ず、勝負に勝てる。それは、昨季ウイングバックに挑戦して「向かってこられる相手が一番イヤ」と実感して辿り着いた必勝法だ。



ただし試合中の一瞬のうちに、見つけ出した「正対」という答えに持ち込むには、意識を超えた無意識のレベルに持っていく必要がある。「難しいレベルにトライしているので、試合に出れなくて落ち込むとか、そんなこと言ってる場合じゃない」との言葉は、欧州で活躍する自分を思い描いているからこそ、だ。

「日本だと、そこまで考えなくても抜けると思うんです。だけど、ヨーロッパで抜こうと思ったら、自分をそのレベルまで持っていかないといけない。結局は『正対』できないとムリだと思う。海外の選手、カプリーニとかアルトゥール(シルバ)は『正対』の意識が備わってるんですよ。おそらく相手にビビらない、日本人とは少し違ったメンタリティが関係していると思う。僕の場合は、意図的に『正対』を作り出す。それができれば、より上に行ける。そうやって目の前の壁を破れたら、本当に止められない選手になります」

首位の水戸を下した翌週の練習でも、果敢に勝負を挑む泉がいた。スモールゲームでは攻守の切り替えや守備の局面で相手に食らいつき、自分の得意な形に持ち込もうと奮闘。その姿からは、壁を打ち破ろうとする気概が感じられた。



山形、水戸と2試合連続でプレー機会が訪れず、同じポジションを争う津久井が2試合連続フル出場を果たしている現状に対しても、悲観はしていない。

「匠海のインテンシティは、素直にすごいと思う。ただ、匠海にできなくて自分にできることは絶対にある。武器の異なる2人の使い方は対戦相手によって変わるし、対策されたときは二の矢、三の矢という考えもあると思う。だから匠海のプレーがヒントになるとか、そこに合わせるという意識はない。やっぱり、自分の色を出さないとダメだと思うから」 

世界を視野に戦う泉のドリブルが大宮に歓喜を呼ぶ。その瞬間は、この先きっとある。


(文:粕川 哲男/写真:高須 力)