2025/26シーズンの選手たちの素顔や試合に臨む姿を伝える不定期連載『Face』。
第2回は、レッズレディースに加入し、2シーズン目を迎える櫻井まどか選手です。ぜひ、ご一読ください。
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67、69、65ーー。
今季、右サイドバックを主戦場にプレーする櫻井まどかの第1節から第3節の出場時間数だ。
櫻井は開幕からスタメンに名を連ね、ときに内側に絞ってビルドアップに参加し、ときにオーバーラップやインナーラップで攻撃参加をする。そして、身体を張った激しい守備で、いまだ失点ゼロのチームに貢献している。
だが一方で、第3節でデビューを果たしたエスタ マイキスをはじめ、岡村來佳らライバルたちも虎視眈々と出場機会を狙い、加えて高橋はなの右サイドバック起用もオプションとして披露された。決してそのポジションは安泰とは言えない。
櫻井が加入したのは、2025年1月。どんな思いを持って、三菱重工浦和レッズレディースに加入し、この約9か月を歩んでいるのか。
その思いを聞いた。
◆「サッカーをやめる覚悟で」◆
浦和への加入経緯を聞くと、櫻井は静かに、だが、感情が抑えられているからこそ、より深く思いが伝わる口調で話し始めた。
「レッズレディースに入れなかったら、サッカーをやめようと思って練習参加していました」
女子サッカーの環境は、まだまだ男子に比べて整っていない。大人までサッカーを続けること自体、決して簡単なことではないだろう。
そんなサッカーをやめるーー。
そうまでして続けてきたものを、彼女はある意味で捨てる覚悟を持っていたということ。
それは明確な目標があったからだった。
「自分の夢として、日本(女子)代表に入ってオリンピック、ワールドカップに出るという一番大きい目標があって。そこに到達するのが25歳ぐらいまでという計画なんですけど、その計算をすると、このままじゃ、今のままじゃその目標は叶えられないなと思って」
目指すべき場所への渇望と今の現実ーー。
いてもたってもいられなくなった櫻井は、前所属チームをやめ、退路を断って、レッズレディースへの練習参加を打診した。
◆加入を決断させた櫻井の姿勢◆
練習参加を受け入れたSDの工藤輝央の最初の印象は、「トップレベルのスピード感で技術を発揮するにはまだ厳しいかも」というものだった。
だが、すぐに櫻井にはしっかりとボールを蹴れるキックをはじめ、裏へ抜けるプレーやハードワークできる献身性が備わっていることがわかった。
そして何より、櫻井には気持ちの強さがあった。
今後についての面談をしたとき、しっかりと工藤の目を見据え、「ここで貢献する自信があります」と言い切った覚悟。その思いの強さと練習前後を含め、彼女が見せていた献身性や現実に真摯に向き合う姿を見たとき、加入をためらう要素はなくなっていた。
工藤自身、育成やトップカテゴリーの指導をしてきたキャリアの中で、何かが足りなかったとしても櫻井のような資質を持つ選手が、何人も“化けた“姿を見てきたから、そして何より、そうした姿勢を持つ選手が大好きだったからだ。
ほどなくして工藤は、櫻井に加入してもらうことを伝える。
「話を聞いたときは、本当に、今までの人生で一番くらい嬉しかったです」
少し照れたような笑顔で、櫻井はその瞬間を振り返った。
◆「難しかったのが楽しかった」◆
サッカーとの出会いは小学3年生のころ。友人に誘われた少年団でプレーを始めた。
「その前からバスケとか水泳とか色々やらせてもらってはいたんですけど、サッカー以外は1ヶ月とかですぐ辞めちゃって続かなかったんです。でも、サッカーだけは楽しくて、ここまで続けて来られました」
「難しかったのが楽しかったことを覚えています」
幼いころから「男の子っぽい」性格で、「男の子とずっと遊んでいる感じ」であり、「泥団子を作ったり、外でずっと体を動かしている」子どもだった彼女は、ミスを前提とするサッカーの、一筋縄ではいかないところに惹かれた。
困難さに挑むという部分に親和性を感じる性格。だからかもしれない。自身のプレースタイルについても次のように話した。
「がむしゃらさとか泥臭いプレーが自分の持ち味かなと思っています。足元の技術とかそういうのじゃなくて、アグレッシブに粘り強く食らいついてくプレースタイルです」
今シーズンの自身のアピールポイントを聞いても、同様のキーワードが上がる。
「がむしゃら」。「雑草魂」。
それには理由がある。
「がむしゃらは小学校のときのチーム名なんです。ずっと、サッカーを始めたときから今まで持ち続けたもので、それが今こうして自分の強みになっていると思っています」
「雑草魂は中学のチームの言葉です。実はレッズレディースのジュニアユースのチームと全国大会で対戦したこともあるんです。大差で負けちゃいましたけど、私が所属していたチームは街クラブで、そういうジュニアユースとかすごい組織のチーム相手でも街クラブの自分たちが勝つっていう、雑草魂でやっていた部分がありました。それを今も大切にして言葉として持っているんです」
櫻井のこれまでの生き方をも表している言葉だった。
◆「お風呂で泣いてました」◆
だが、実際にチームに入ってからは厳しい現実が待っていた。技術差があり、練習についていくのもやっとだったからだ。
家に帰ると、彼女は思った以上に体感する“差”に押しつぶされそうになり、一人風呂に入りながら涙を流す日々を過ごした。
「その時期が一番きつかったです」
櫻井はそう話す。
だが、それでも彼女は折れなかった。
トップレベルのチームに入ると決めた覚悟が支えになったからだ。
「ここで折れたらレッズに入ってきた意味がないと思いました。下手は下手なりにやれることがあると思って、まずは一番最初に練習に来て一番最後に帰ろうとか、当たり前のことなのかちょっとわからないですけど、一番自分ができることからやろうと思って」
◆「チームの力になりたい」◆
そして、チームの一員として受け入れてもらえたことが大きな支えとなった。
「サッカーでは足を引っ張っているなと思って、じゃあ何ができるってなったら当たり前の準備とか片付けとかしかなくて、そこでみんなの力になっているかはちょっとわからないけど、みんなの力になりたいと思ってやっていました」
「それを認めてくれたのかわからないんですけど、選手たちも認めてくれて、コーチ陣とかスタッフも自主トレに付き合ってくれましたし、たくさんサッカーを教えてくれて。その中でいろいろなものを吸収して、少しでも追いつこうとしている段階なんですけど...。見捨てないでいてくれたというか、一人の仲間として認めて受け入れてくれたというのがあって、本当にこのチームに入ってよかったなと思っています」
そうした積み重ねが、昨シーズンの印象的な場面につながっている。
5月11日ノジマステラ神奈川相模原。
前半、ふだんは起こりえないミスから2点のビハインドを負った中で、監督の堀孝史は後半開始から櫻井を起用する。
もちろん、戦術的な理由もあったが、堀自身、日ごろからの櫻井の姿勢、それに付随してどんどんよくなる彼女を信頼していたからだった。
その結果、自身の持ち味であるキックの良さを見せて2ゴールし、チームを敗戦から救った。
◆ 新たなポジションへの挑戦◆
今シーズンは新たなポジションでの挑戦が始まっている。
「昨シーズンとは違ったポジションで今シーズンは挑戦させてもらっていて、その中でチームが勝つためにはと考えたときに、点に絡むとか自分が点を取る部分だけではないと気づかせてもらって」
得点する前には必ずボールを奪った選手がいて、それをつないでくれた選手がいる。ポジションがサイドバックになったことで、あらためてそうしたことに気づき、今度は自分がチームを支える存在になりたいと考えている。
「危ないシーンで体を張ってボールを奪ったり、ゴールを守ったり、スライディングでも体を顔面とかで当たってでもチームのボールを必死につなぐというところ。そうしたチームを支えていけるような存在になれたらいいなと思っています」
◆「きついときが楽しい」◆
そんな櫻井にサッカーで一番楽しいと思う瞬間を尋ねると、次のように話した。
「きついとき、息が切れるような状況のときに楽しいなとなります。相手とすごいバチバチやっているときとかも楽しいですし、全力でボールを追いかけているときもです」
彼女は、自身の限界を超えるような瞬間を迎えるとき、サッカーをやっている充実感を感じているという。
根っからの挑戦者なのだと思う。
だからこそ彼女の最終的な目標は変わらない。
「やっぱりもっと上を目指したいし、世界のトップになりたいです」
25歳ごろまでに世界で通用する選手になる。その目標から逆算して行動しているからこそ、今の挑戦がある。
「代表歴とかもなければ輝かしい実績があるわけでもないですし、本当に凡人というか、一般的な道のりだったんですけど、そういう自分だからこそできるというか、ここまでやれるという姿を見せたいです」
そして最後に、静かだが確かな声音でこう話した。
「何もやり遂げてこなかった自分だからこそ、やる意味があると思ったのも、この挑戦をしようと思ったきっかけでした。自分だからこそできるものを見せていきたいと思います」
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櫻井を見ている中で、忘れられない光景がある。
加入して間もないころーー。
彼女は、レッズレディースの練習に参加しながら、まだ神奈川での仕事先に通っていた。
午後からの仕事に間に合わせるためには、練習後、すぐにグラウンドを出なければならない。
そのため、彼女にはチームメイトと共に練習の片付けをする時間はなかった。
責任感があり、真面目な櫻井にとっては、とても申し訳ない気持ちと、まだ入りたての自分がそれでいいのかという気持ちもあったのだと思う。
そして、インタビュー中に話していたように、ピッチで力になりきる力がまだない自分は、何でチームに貢献をしたらいいのかということも考えた。
だから彼女は、せめて練習前の準備だけはしようと、誰に言われるでもなく、誰よりも先にグラウンドに来て、準備の手伝いをし続けた。
フットボーラーとして成功する1つには、もちろん、類い希な才能も必要だと思う。
だが、櫻井を見て思うのは、誰かを思いやり行動に移せること、そして、努力をし続ける力があることも、成功につながるとても大切な要素だということだ。
これからレギュラー争いは、苛烈さを極めるかもしれない。
それでも彼女は、何があろうと、"がむしゃら"に、"雑草魂"を持ってプレーを続ける姿、生き様を見せてくれると思う。
ぜひ、浦和駒場スタジアムに来て、彼女のプレーを見てほしい。
きっとあなたも櫻井まどかを応援したくなると思う。
(文・写真/URL:OMA)
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