真夏の暑さが残る今週。強度も密度も高い練習で抜群のキレを見せていたのが、今年35歳になる和田拓也だ。ゲーム形式のトレーニングでは、すばやい寄せでファビアン・ ゴンザレスを抑え、絶妙なカバーリングでピンチの芽を摘むなど、豊富な経験を生かした“いぶし銀のプレー”を随所に披露。攻守両面で見せる存在感は、少しも衰えていない。
――お疲れさまです。攻守が激しく入れ替わるトレーニング、あれは相当ハードそうですね。
「あれはまだ、いいほうなんですよ。でも、ゲームがキツいっす」
――和田選手自身は、ものすごく状態が良さそうに見えます。
「先々週からコンディションが上がってきてる実感はあります。これまでは暑さでだいぶしんどかったんで、少し涼しくなったことでキレが出てきて、動けるようになってるかなと思います。状態は、今シーズン一番良いくらいじゃないですかね」
――チームは連敗中ですが、今の状況をどう見ていますか?
「ケガなどで離脱している選手もいますが、それでチームとしてうまくいかなくなったって感触は特にないですね。代わりに出た選手がよくやってるし、(下口)稚葉とか(泉)柊椰、(茂木)力也なんかが周りの選手に気を遣ってあげてるので、守備に関してネガティブに感じているところはありません」
――前節はシステム変更もありましたが?
「特にサイドの選手がうまく順応してるなって思うし、難しい部分に関しては(動きの)量でカバーして、穴が開かないように体を張ってる感じがあるので。システムが変わっても問題はありません」
――複数ポジションできる選手がいることが心強いですね。
「守備のベースに関しては(長澤)徹さんが去年からずっとやってきたことで、今年から入った選手も、ヤス(安光将作)なんかそうですけど、そこに順応しようと必死で、実際良くなっていると感じます。今以上にケガ人が出たとしても問題ないと感じてます」
――ここから今治、磐田、仙台と続く上位対決の結果が、今季の明暗を分けそうです。
「本当にそのとおりで、3つ勝てば優勝も見えてくるけど、3つ負けたらちょっと自動昇格が難しくなる、大事な3戦だと思います。みんな勝ちたいのは間違いない中、どうやって戦うのか。ここ数試合の自分たちのゲーム運びを考えると、いい時間帯に点が取れずに、1回のチャンスで刺されてる。ただ、やり方は間違ってなくて、どこかで点が入っていれば……という感じもあるので、悲観はしていません。やっぱり、ここからプレッシャーが大きくなって普段通りのメンタルでできないとか、一つのミスがその日の試合結果以上、シーズンの結果に直結しちゃうようなフェーズに入ってくると思うので、そこで自信を持ってやれるか。やっぱり自信を持って戦えるチームは強いので、気持ちを落とすことなくやれたらいいと思います」
――そうした和田選手の思いが、練習での気迫に満ちたプレーに出ていると感じます。
「自分がやれることは、練習から姿勢を見せることなので。自分の姿勢がチームの刺激になればいいとは思います。あとはゲームを観ていて感じるのは、テンポが速いせいで攻撃が単発で、厚みや重みがないというところです。自分の感覚では少し攻め急いでるなとか、速すぎるなと感じるので。自分が出たら緩急を出しながら、一つの決定機を作りに行く意識より、90分のなかで最後に相手をどう上回るかを考えるかな。残りの9試合をどう戦うか考えたとき、9試合でどれだけ勝点を取れるかが大事になってくる。テンポはいい、決定機は作る、でも(得点が)取れなくて刺されるで終わっちゃうのはもったいない。そのへんは考えながらやりたいですね」
――ここ2試合、札幌戦と長崎戦は前半最後に与えたFKから決勝点を奪われました。
「僕自身は、攻撃の淡白さが直結しちゃうなと感じています。全部縦に急ぐのではなくて、1本パスをつなぐことで、前にかけられる人数も変わる。前に人数がいれば、奪われても取り返しやすいし、前につないだときにサポートが増えれば失うリスクも減る。そういう状況で厚みを出して攻めれば、相手としてはボールを奪えずに走らされることがダメージになって、最後のカウンターで体力的についていけなくなったりする。そういう先を見越したゲーム運びができたらいいな、とは思っています」
――そのような戦術眼は、多くの試合を経験して得るものですか?
「でも、難しいですよね。でも、相手を見ながら今は速いほうがいいとか、今はゆっくりでもいいよねってテンポを変えられたらいい。そういう目とか感性を持った選手が増えたらいいとは思います」
――残り9試合。目標のJ1昇格を成し遂げるためには何が大切ですか?
「さっきまで方法論を話しましたけど、結局はメンタルなんで。ここから、いかに自信を持って、思い切ってやれるかということが、勝つために一番大事なこと。技術とかそういう段階はとっくに過ぎてるから、最後は気持ちだと思います」
――リーグ戦は一つの勝敗で順位が入れ替わる大混戦ですから、モチベーションが下がることはなさそうですね。
「この状況で集中が切れたり、気持ちが途切れたりすることはないと思います。やっぱりここ2年、神戸があれだけ強いっていうか、タイトルを獲れている要因として思うのは、大迫(勇也)選手とか武藤(嘉紀)選手の気迫です。勝利に対する執念、試合に向けての気持ちの持っていき方がすごいなって。もっといいサッカーをしてるクラブはあるかもしれないですけど、最終的に神戸が勝てているのは気持ちかなって。これまであんまり意識したことはなかったですけど、やっぱりメンタルって大事なんだなって思います」
――そういった意味では、今週の練習でも和田選手や富山選手が懸命にプレーする姿が、チームに闘志を注入していると感じます。
「だといいんですけどね(笑)。だけど、サボってる選手はいませんから。単純に場数の問題なだけで。今年この状況を乗り越えて目標を達成できたら、みんな強くなりますよ。経験がなくて知らないだけなので、そのあたりを示せたらと思います」
――最高の形でシーズンを終われることを期待しています。
「みんな絶対J1に昇格したいし、試合に勝ちたくてやっているので、その気持ちをいかに表現できるかだと思います。ただ、そのせいで硬くなり過ぎないといいですよね。水戸や千葉が調子良かったときは、すごい自信を持って楽しそうにやっていました。やっぱり、大事なのはそういう心の持ちようじゃないかな」
(文:粕川 哲男/写真:高須 力、早草 紀子)