
◆AC長野戦で見せたプレーの意味◆
「ボールと選手が出会う感じで、これまでだったらなかったプレーなんだろうなと思います」
後藤若葉がそう振り返ったのは、2025/26 SOMPO WEリーグ 第9節 AC長野パルセイロ・レディース戦。前半32分のシーンだ。
※ページ最下部に映像があります。
一見すると、自然にボールが流れ、チームが簡単に前進したように見える。
だが、個人としてもチームとしても積み上げてきたものが見事に表現されたものだった。
◆出し手と受け手が描く“同じ絵”◆

自陣でアンカーの平川陽菜から前向きにボールを受けたセンターバックの後藤は、ワンタッチで左前方に生まれたスペースにボールを送る。タイミング良くそのスペースに走り込んだ長嶋玲奈は、前向きにほぼフリーの状態でボールを受け取り、その後、一気に榊原琴乃との連係で相手陣内深い位置へ進入してクロスを上げた。
何が見事だったかと言えば、このシーン、相手の最初のディフェンダーのプレッシャーのかけ方、2列目の守備位置、そしてその結果生まれるであろうスペースを、出し手である後藤、受け手である長嶋がしっかりと見極め、同じ絵を描いたことだろう。
後藤は相手の動きによってパスラインが生まれることを予測してワンタッチで臆することなくスペースへとボールを送り、長嶋はボールを呼び込むように、相手ディフェンダーの動きで生まれた背後のスペースに走り込んでいる。
二人の、相手DFのアクションとそこから生まれるであろうスペースを理解する力、そして技術がかみ合った素晴らしいプレーだった。
後藤は手応えを口にする。
「昨シーズン、堀(孝史)さんになってから自分たちが取り組んできたことと同じことをやっているんですけど、今シーズンはそこが全員とても整理されていて、やることが統一できていると感じています」
「だから、今シーズンは自分たちがゲームを支配できる時間が多い試合が増えていると思いますし、アメリカツアーで積み上げてきたものがよい形で出せています」
◆約25mの距離を刺した効果的なパス◆

実際、後藤はこのシーンだけでなく、攻撃面を加速させるパスを今季何度も見せている。
たとえば、前々節のRB大宮アルディージャWOMEN戦の前半7分のシーンだ。
自陣深くで池田咲紀子からボールを受けると、後藤はワンタッチで前に運び、迷わず右斜め前、約25m先に位置した加藤千佳へ左足でライナー性のボールを送った。
一気に相手のFW、MFの2つの守備ラインを越えた効果的なくさびだった。
「あのシーンは千佳さんと目が合ったわけではないんですけど、でもなんとなく千佳さんがいてくれるのがわかっていました」
「その二つ前のちふれASエルフェン埼玉戦のときの美紀さん(伊藤)に出したやつも同じようなパスだったんですけど、あのときは美紀さんと目が合った感覚があって。美紀さんも若葉なら見ているかなと思っていたと言っていました。でも、こういうのって、練習の中で積み重ねていて、本当に全員がつながれてきているような感覚があるんですよね」
実際、同じようなプレーは何度も練習で見られている。
いわゆる再現性のあるプレー。後藤は、チームとして共通したものが生まれている確かな感触を口にした。
そして、そうしたものが後藤自身のプレーの質も高めている。
「これまで私は右のセンターバックを務めることが多かったんですが、今は左のセンターバックにチャレンジさせてもらっています。前までは、左足で速いボールをグラウンダーで前線の選手に届けるということができなかったと思いますけど、今はポジション的にも左足にチャレンジしていて、だからこそ、ああいう通すパスをできるようになったと思いますし、じゃあ、そこから左足でどう運んだら、相手は嫌がるのか、より繊細なボールの置き位置だったり、運び方の身体の向きなどを意識するようになっています」
後藤の話を聞いていると、チームとしての共通理解が深まっている状況や日々の練習でチャレンジできる環境があること、それらが個人の成長をも促し、好循環を生んでいることがわかる。
◆いまのチームの課題は◆

では、いまのチームの課題はどこにあるのだろうか。
「試合終盤などに、チームがちょっと慌ただしくなってしまう傾向にありました。相手も点を取るために前から来ている中で、チームとしてもそれに対応していく中、どう守備で守り切るのかもそうですし、自分たちの時間をどう作っていくかというところにもチャレンジしていきたいです」
実際、ここ2試合は後半に少し流れを相手に渡してしまっている印象だった。
「そこが良くなればもっと試合全体を通して自分たちが支配できるんじゃないかと思うし、自分たちも楽に試合を進めていけるんじゃないかと思います」
◆一戦一戦を大切に勝ち点3を◆

次節は、昨季リーグで2度引き分けたノジマステラ神奈川相模原との一戦になる。後藤は気を引き締める。
「勢いのあるチームだと思いますし、その相手に対して最初から自分たちがよい入り方をするには、守備が大切です。連係したハイプレス、相手にペースを掴ませない、形を作らせないことを意識したいです」
「それと、やっぱり今季、よい形で進められているのは、前半の早いタイミングで点を取れているというところもあると思います。そこはDF陣としてもすごくありがたいので、最終ラインからそこにどうつなげていくかということも考えていきたいです」
そして、目の前の相手に集中して臨む大切さも語った。
「今季は一戦一戦の勝ち点3の大切さをより感じています。自分自身、シーズン初めから長く試合に出させてもらっていて、すごく積み上げてきていると感じています。だからこそ、どんな試合展開になっても、最後まで自分たちのサッカーを、自分たちの試合を貫けるように、相手に良さを出させない、自分たちの良さを出し続ける、その上で次も無失点で勝ちたいと思っています」
後藤は、加入した2024年当初から自身の状況やプレーのシーンを冷静に振り返り、言語化する力を持った選手だった。
一方で、AC長野戦の終盤に見せたシュートブロックのように、身体を投げ出し、チームの勝利に貢献するために身を粉にしてプレーする情熱さも持っている。
タイトルを目指し、一戦必勝で戦う今季。
チームの成長と個人の成長が、1試合1試合見られるのも、このチームの魅力の一つだろう。
N相模原戦で、冷静さと情熱を併せ持つ背番号4のDFがどのような進化を見せてくれるのか。自分たちの試合を貫いた先に掴むチームの成長も含め、ぜひ、浦和駒場スタジアムで目撃して欲しい。
(文・写真/URL:OMA)

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