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【トレーニングレポート】2年前の悔しさを誰よりも知る茂木力也が、大詰めを前に心に誓うこと

【トレーニングレポート】2年前の悔しさを誰よりも知る茂木力也が、大詰めを前に心に誓うこと

茂木力也は今、復活の途上にいる。

J1出場歴は2018年に浦和で記録した1試合のみ。2023年のJ3降格がキャリアにおける底だとすると、自身がいるべき場所を目指して、チームとともに這い上がっている最中だ。



大宮は、チーム名が変わり、スタッフも選手も入れ替わった。2年前の悔しさを知るのは、笠原昂史、志村滉、茂木力也、貫真郷、石川俊輝、小島幹敏、富山貴光の7選手。当時、市原吏音は2種登録、関口凱心と藤井一志は特別指定選手だった。そんな中、茂木は、誰よりも長い時間ピッチに立っていた。

2023年の3235分という出場時間は、小島や笠原よりも長いチーム最長記録。だからこそ、さまざまな思いを抱えながら現状に向き合っているに違いない。

大宮に加入した2022年から、茂木は定位置を掴んでチームに貢献してきた。2年連続でシーズン中の監督交代があっても、ポジションは譲らなかった。両サイドで遜色なくプレーし、J3優勝を遂げた昨季は27試合出場5得点。八戸との開幕戦で決めたヘディングシュート、第20節・沼津戦で見せた意地の一発、5-4の撃ち合いを制した第35節・鳥取戦での1点など、キャリアハイの得点数も記録した。



今季も開幕から先発フル出場を続け、システム変更にも対応している。もともとポリバレントな能力を備え、SBでもCBでもボランチでも質の高いプレーを見せてきたが、「システムは最初の立ち位置だけ。試合中はボールと相手を見てどんどん形が変わるのが普通だから、気にしていない」という柔軟性を持ち、リーグ序盤の快進撃を支えた。

5月、右膝内側側副靭帯損傷で離脱を強いられた。だが、そこで見せつけたのは持ち前の体の強さだ。軽傷とは言えないグレードだったにもかかわらず、「自分のケア不足によるケガじゃなく接触だったので、落ち込んでもしょうがない」と開き直り、リハビリに励んだ。すると驚異的な回復力を見せ、予定よりもはるかに早い6月中旬にピッチに帰ってきた。



戦列に戻った翌節、第20節・鳥栖戦でJリーグ通算300試合出場を達成した。ただ、「あとはJ1での出場数を増やせるように、大宮でJ1に上がってポジション争いに勝てるようにこれからも頑張りたい」と、喜びを語ることなく、今後へ目を向けた。

7試合連続で先発していた第29節・長崎戦を落とし、試合終盤にピッチに立った第30節・今治戦でも競り負けて3連敗。長澤徹前監督から宮沢悠生監督へ指揮権が託された。長澤前監督に対する感謝の気持ちは強く、結果を残せなかった責任も感じている。それでも、勝負の世界に生きるプロサッカー選手だ。感傷に浸ることなく、宮沢監督の下での目標達成に気持ちを切り替えている。

「勝てていなかったのは僕たち選手にも責任があるので、(徹さんに)申し訳ない気持ちでした。ただ、簡単な決断ではなかったと思うので、この時期に引き受けてくれた宮沢監督への感謝もあります。磐田、仙台と結果を残せた勢いを落とすことなく、目の前の試合で自分たちが目指すサッカーを出して、最後にいい形で終わりたいです」



ここ2試合、磐田と仙台を相手にチームが勝負強さを見せて連勝を収めているなか、茂木は出場機会を得られず、メンバー入りに止まっている。それでも、心の揺れや迷いはない。

「僕自身、ピッチに立てていないからといってメンタル面がブレたり、練習に臨む気持ちが変わったりということは、これまで一度もありません。ずっと、しっかりやってきました。チャンスが来たときには、自分のプレーを出すこと、周りの選手を生かすことを考えて、勝利に貢献したいです」

33節・藤枝戦を2日後に控えた1016日の練習には、いつもと変わらず黙々とプレーする茂木の姿があった。小雨が降る中、ボール回し、ステップワーク、ビルドアップ、相手の背中を取る動きからのフィニッシュ、4人一組によるクロスからのヘディングシュートなどをこなし、「やっぱり大事なのは日々の練習。今日もいいトレーニングができたので、そうやって毎日積み重ねていきたいです」と、藤枝戦へ向けて気持ちを引き締めていた。



リーグ戦はラスト6試合。J1昇格プレーオフも合わせると、8試合しか残されていない。大宮に関わる多くの人々の人生がかかる、正真正銘の大詰めだ。そんな最終盤を前にした茂木の願いは、一つ。
「後がない状況、一つも失えない状況で残留を争った、あの経験があるからこそ今がある。だから絶対にJ1に昇格して、最後にみんなで笑いたい。いるべき場所に、しっかり戻りたいと思います」

2年前の11月に味わった屈辱の記憶は消えていない。あの悔しさを知る茂木は、これまでと変わらない姿勢でピッチに立ち、運動量を生かして攻守に走り、信頼できる仲間と歓喜を味わうことで、個人として長年追い求めた場所で完全復活を果たそうとしている。




(文:粕川 哲男/写真:高須 力、早草 紀子)