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【トレーニングレポート】途中出場でもスタメンでも、津久井匠海がただひたすらに求めるものとは

【トレーニングレポート】途中出場でもスタメンでも、津久井匠海がただひたすらに求めるものとは

オフ明けの11月5日、今週末の水戸との大一番に向けたトレーニングがスタートした。

ウォーミングアップとロンドからボックス・トゥ・ボックスのグリッドでの3対2、スモールコートでのゲーム形式の練習を消化した。宮沢悠生監督から「マックスの強度で!」と声が飛ぶ中で、選手たちは試合さながらの迫力でバトルしていった。どの選手も動きは軽快だが、その中でも津久井匠海が目を引く。



34節の山形戦で終了間際に同点シュートを叩き込むと、第35節の秋田戦でもチームの2点目をゲットしている。宮沢監督の就任後は、途中出場が続いていた。限られた時間でも結果を残すことに、練習からこだわってきた。

「途中交代の選手はゲームチェンジャーと言われますけど、そういう選手が非常に大事になってくるので、自分が決めることをずっと意識していました。結果が僕の立ち位置を変え、周りからの評価も変わってくると思うので、短い時間でも途中交代でも何も変わらずに、チームのためにできることをずっと考えてきました」

32節の仙台戦から山形戦まで、杉本健勇と同時に出場している。山形戦のゴールは、杉本がヘディングで落としたボールを左足で蹴り込んだものだった。

「最近は健勇くんと入ることが多かったので、『途中から入ったら匠海いくぞって(声をかけてくれる)』。最後のゴールも信頼していたからこそ、自分はあそこに入り込めたと思っていますし、それは本当に日々の練習から積み重ねたものが出ました」


チームを敗戦から救ったこの一撃は、自身8試合ぶりの得点だった。「最後の局面ではクオリティが問われる。得点やアシストを決めることでチームを助けたい」と話すアタッカーにとって、ゴールから遠ざかる時間は歯がゆいものだったに違いない。

「結果がほしいという状況の中で焦る場面もあったんですけど、前回の試合はそれがやっと落ち着いたというか、フラットに落ち着いてプレーできたので、最後のゴール前でもリラックスして打てたかなと思います」

そう言って津久井は、「焦るというか、試合に出る以上は結果を残したい、自分の価値を高めたいので、やっぱり気負う場面もありました」と率直な思いを明かした。6月に完全移籍で加入したこの23歳は、J1昇格へ向けてチームの勢いを加速させる、との使命を胸に刻んでいる。だからこそ、山形戦の得点は彼にとって大きな意味を持つのだ。



「自分は前線の選手なので、ゴールとかの形にならないと、積み上げてきたものを皆さんの前に出せない。僕もこの1か月間、自分にずっと期待していましたし、練習から見せていたからこそ宮さん(宮沢監督)もたぶん使ってくれて、それがひとつ形になって本当にうれしかったですね」

続く秋田戦では、スタメンでピッチに立った。第28節の札幌戦以来であり、宮沢監督就任後は初めてだった。

「ひさしぶりにスタメンで出て、あの試合にかける思いは強かったですし、宮さんが前回決めた僕を使ってくれたという、その思いに絶対応えようと思いました。数的優位になったあとで2点目が大事だと思っていて、ゴール前で足を止めなかったことが結果につながったと思います」

宮沢監督の[4-4-2]では、ダイヤモンド型の中盤の左サイドに立つ。これまでとは立ち位置が異なるものの、津久井はプロに入ってからさまざまなポジションを任され、左右どちらのサイドでもプレーしてきた。SBで起用されたこともある。ピッチの横幅を使ったドリブラーの印象もあるが、彼自身は現在の役割に手ごたえをつかんでいる。



「中盤がダイヤモンドになりましたけど、難しさは感じていないです。(サイドではなく)内側でも全然ボールを運べるタイプですし、可変してサイドに張ることもあるので、そこは苦ではないですね。むしろ自分の特徴が出せるポジションだと思っているので」

秋田戦の試合前には、Jリーグ通算100試合出場のセレモニーが行われた。両親とふたりの姉と一緒に、ピッチ上でカメラの前に立った。

「自分は3人兄弟の末っ子で、子どものころから姉ふたりに世話になってきました。両親はいつも試合に来てくれるのですが、家族全員が集まってくれてうれしかったですね」

ユースから昇格した横浜F・マリノスでは、1試合も出場することができなかった。期限付き移籍したJFLのラインメール青森でも、加入当初はピッチに立てなかった。「サッカーをやめなきゃいけない、と思ったこともありました。その中でやり続けてきたから今があるし、JFLとかJ3とかいろいろな道をたどってきましたけれど、本当にたくさんの人に感謝しています」



感謝の気持ちは、残り3試合に注ぐ。J1昇格への思いが、津久井の胸で熱く燃えている。

「サッカー人生でこういうしびれる状況はなかなかないですし、自分たちの手でJ1昇格を手繰り寄せられる。そんな幸せなことはないです。J1昇格をつかみ取るために、残り試合を全力でやっていくことしか考えていないですね」

試合に出られない悔しさや苦しみを知るからこそ、ピッチに立ったらすべてのエネルギーを、パワーを出し切る。

ほしいものはただひとつ、チームの勝利だ。




(文:戸塚 啓/写真:高須 力)