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【トレーニングレポート】加入当時からの思いを成し遂げるために、杉本健勇が『一瞬』にこだわる理由とは

【トレーニングレポート】加入当時からの思いを成し遂げるために、杉本健勇が『一瞬』にこだわる理由とは

11月19日の公開練習前日の18日、杉本健勇は33歳の誕生日を迎えた。練習前には円陣が組まれ、スタッフと選手から祝福された。杉本もスピーチで応え、グラウンドに拍手の輪がひろがった。



「目標達成のために、誕生日も惜しんでトレーニングしましたんで。まずは23日の試合へ向けて、勝つためにいい準備をします」オフ明けにしては強度の高いトレーニングで、いつもどおりの存在感を示した。
「止める、蹴る」の「止める」が、この男はいつでも柔らかくて絶妙なのだ。

勝負どころで結果を残している。それにはもちろん、理由がある。
「ああいう一瞬のために、日々やっているんでね。そのひとときのために、やり続けているから。それは、みんなもそうやと思うけどね」

712日の第23節甲府戦を最後に、スタメンでの出場はない。それでも、杉本健勇は途中出場で価値ある働きを見せている。臨戦態勢を崩さない。



「昔からチームファーストでやってきたつもりやけど、若いときはステップアップしたいから、自分が点取ればいいって思う時期もあった。今はどちらかと言うと試合の流れを見ながら、入ったときにどういうプレーをするか、どういうことをしたら相手は嫌がるのか、チームがどういうプレーを求めているのか、というのをイメージしながら試合に入っている」

ピッチで結果を残すための準備をしながら、チーム全体に目を配っている。練習でも試合でも、積極的にアドバイスをする姿がある。

「俺なりにその時に気づいたこととか思ったことを、言っているって感じなんですけど。それをどう受け止めるかは相手次第やし。ただ、あとで『言っといてあげたらよかったな』とか思いたくないから、そのとき思ったことを言うっていう。シンプルなことなんですけど、それでよくなることもあるし。ひとつのアドバイスとして、頭の片隅に入れてくれたらいいかなっていう感じです」

241月に期限付き移籍を決めたその瞬間から、胸に秘めてきた思いがある。「このクラブをJ1へ上げる」との思いが、杉本の体の芯を貫いている。



「俺は去年から、『絶対にJ1へ上げたい、上げるためにここに来た』と周りに言っていました。でも、まずは去年J3で優勝して、J2に上がらなあかんかったわけで、段階は踏んでですけど、今目の前にそのチャンスがあるっていうのは、ホントに幸せなことやし。それに向かっていい準備をして、試合を重ねて戦えているのが、純粋に幸せやなって思いますね」

プロ16年目である。RB大宮アルディージャは、7つ目のクラブだ。国際舞台にも立ってきた。さまざまな種類の経験をしている33歳にとっても、「このヒリヒリや緊迫感は、なかなか味わえない」ものだ。

「俺らはもう勝つしかないんで、上にいるチームとはちょっとまた心境が違うかもしれない。目の前の試合をどう勝つか、ということしか考えてない。(J1昇格争いをしているライバルの)どこが負けた、どこが引分けたとか、そんなことはどうでもいい。目の前の試合に勝つ、残り2勝する。(昇格するために)それだけは決まっていることやねんから、それだけに集中するべき」



23日の徳島戦は、今シーズン最後のホームゲームだ。杉本は第34節の山形戦で1得点1アシスト、第36節の水戸戦で2得点を記録しているが、いずれもアウェイでの戦いだった。今度はNACK5スタジアム大宮で背番号23のゴールを見たい、というファン・サポーターは多い。間違いなく、多い。

「毎試合決めたいと思ってるし、ホーム最終戦でチケットは完売と聞いているので、(自分が)決めて勝ったらね、最高ですね」

27節の熊本戦では、後半85分に決勝弾を叩き出した。RB大宮のファン・サポーターで埋まるゴール裏へ向かって攻める中で、スタジアムに特大の歓喜を呼び込んだ。

メインスタンドから見て右から左へ攻める中での得点は、杉本も「最高ですね」とうなずく。「頑張りたいですね」と、静かに闘志を燃やす。

19日のトレーニングでは、一つひとつのメニューに熱を込めて取り組む杉本がいた。1本のパス、1本のシュート、1本のランニングへのこだわりが、勝利への強い思いを表わしている。



「結果は分からないです。コントロールできないんで。いい準備をして、最高の準備をして試合を迎えて、リーグ戦で言ったら残り2試合なんで、すべて出し切る、そのためにすべていい準備する。これでダメだったらしかたなかったなって思えるように、一人ひとりがやるっていう。試合の日に『大丈夫や』って思える準備をみんながしたらいいと思うし、それは人それぞれ違うんで。でも、必ず勝負は一瞬で決める」

その一瞬を制するために。杉本は集中力を高めていく。
「いい準備をするのはもちろん大事ですけど、一瞬の判断と一瞬の出来事が全部勝負を決めるんで、そこで力を発揮できるか。そのために、いい準備をしないといけない」

そう言ってまた、杉本は「一瞬」の重要性を強調した。
「試合の時に、勝負は一瞬で決まるんで、そこだけです。一瞬の判断と一瞬のプレーで絶対決まるから。そこに集中するっていう」

RB大宮アルディージャを、約束の場所へ導くために。杉本は心身を研ぎあげる。


(文:戸塚 啓/写真:高須 力)