リーグ最終節の山口戦へ向けたトレーニングが、11月26日に公開された。
オフ明けのメニューはいつもとほぼ変わらないが、7対7+2のゴール前での攻防などは、いつにも増して熱がこもっていた。勝点3奪取へ向けて、チームの士気は高まっている。
全体練習後はDF陣が集められ、宮沢監督のもとで個別のトレーニングが行なわれた。ラインの上げ下げや選手同士の距離感、攻撃側との間合い、誰がどのタイミングでどのエリアをカバーするといった確認を、村上陽介もこなしていった。
この23歳のCBは、第29節の長崎戦から9試合連続で先発出場している。試合の重要度が増すリーグ戦の終盤で確かな存在感を示しているが、プロ2年目のシーズンは順境よりも逆境の時期が長かった。
シーズン序盤はスタメンをつかめない日々が続いた。3月26日のルヴァンカップで公式戦初出場を果たすが、前半に退場処分を受けてしまう。リーグ戦初出場は4月13日の秋田戦で、村上はJ初ゴールをマークする。チームも勝利を飾ったものの、スタメン奪取とはならなかった。
6月15日の長崎戦では、ガブリエウの負傷で前半40分からピッチに立った。敵地での勝点3を自らに課したが、途中出場のフアンマ・デルガドに同点弾を決められてしまう。マークについていたのは、村上だった。
「今シーズンはホントに色々なことがありました。ルヴァンカップの退場だったり、長崎戦で最後に追いつかれたり。そういう中で自分なりに学んできたというか、ホントに一歩ずつ成長して今があるなという感覚はすごくあります」
その「今」が、とても頼もしい。
雌伏のときを経てスタメンでプレーしている村上は、ディフェンスの局面で慌てることがない。どんな相手にも冷静かつ堂々と対峙している。シーズン開幕当初とは、ピッチ上の佇まいが明らかに異なるのだ。
「秋田戦で1発ぶち込んだのは、やっぱり大きな自信になりました。結果として今の自分にいい影響を与えているのは間違いないです。ヘディング練習もパス練習もすべて結果のためにあると思っていて、とくにヘディングはゴール前でクリアするとか、得点を取る確率を少しでも上げるためにやっているわけで、結果につなげるためにやっている意味では、この前の徳島戦は非常に悔しかったですね」
宮沢悠生監督が掲げた「狩る」姿勢を、村上はしっかりと体現することができている。指揮官の要求と自身のプレースタイルが、明確にシンクロしている印象だ。
「もともと球際とかは得意としていますし、宮さんはCBでも攻撃的というか、リスク管理の部分でも高い位置を取ってつぶしきることを求められます。すごく高いレベルを求められて、もちろんまだまだできていないところも多いと思いますけど、少しずつ求められていることに順応しようとしているところが、成長につながっているんじゃないかなと思っています」
ピッチ上での堂々たる佇まいは、感情表現を豊かにする。相手のシュートをブロックした村上は、力強いガッツポーズを見せたり、雄叫びをあげたりするようになった。
「去年もすばらしい応援をしていただいて、J3に落ちた中であれだけの方が毎試合来てくれたのは、ホントに特別なことだと思っています。それを受けて、今年に入って明らかにボルテージの上がったスタジアムの雰囲気を作ってもらっているので、それが間違いなく自分の気持ちが高揚するところにつながっていると思います」
スタジアムの熱が選手を熱くし、選手は一つひとつのプレーにありったけの思いを込める。GK笠原昂史はシュートストップ後に、下口稚葉や市原吏音、それに村上らはシュートブロック後に、入魂のガッツポーズをする。それがまたさらに、スタンドのボルテージを高める。
「感情を出すのは、すごく大事なことだと思います。稚葉くんとか笠くんを見れば、誰でも熱くなると思う。なおかつ、冷静さというのも必要な要素なので、そのバランスが取れるような選手になっていけたらいいですね」
毎試合が決勝戦と言ってもいいJ1昇格争いの緊張感に身を包むことで、村上は成長速度を一気にあげている。チームが長く険しい激闘を終えたとき、彼はきっと大きなものを手にしているに違いない。
「とにかくRB大宮が来年J1にいる、ホントにそこだけに全精力を注いで、もうあと3つと決まったわけで、ホントに死ぬ気で戦って、J1の舞台を必ずつかみ取る。まずは目の前の山口戦に全精力を注いで、あと2日準備したいと思っています」
ここから先の戦いは、チームの歴史を、自身のキャリアを左右するモノとなる。それでも、村上のメンタリティはこれまでと変わらない。
「そこはそんなに意識しなくていいんじゃないですかね。やっぱり勝った先に、3つ勝った先に、気づいたら何かが残っていたという状態が僕は1番いいと思うので。ホントに目の前の1試合ずつ勝つだけだと思っています」
手応えをつかみ、自信を深めた。スタメンでピッチに立つ自覚も高め、ディフェンスの中心としての風格を漂わせるようにもなっている。
村上の「今」が頼もしく、「これから」がさらに楽しみである。
(文:戸塚 啓/写真:高須 力)
RB大宮アルディージャ